非正規エンジニアが理解すべき社会保険の真実
長く非正規で働いてきた俺も来月からとりあえずフリーランスで働くことになった。雇用形態がどうなろうが結局は現場で常駐して働くわけで、その辺りのキャリアの進歩の無さには焦燥感を感じるわけだが、いかんせん先立つものが無いので、無職期間を満喫するにも限度があった。
フリーランスと非正規との違いとして、自分で確定申告をして所得税を収めること、非正規が加入する社会保険(厚生年金+健康保険)や雇用保険には入れないことがあるが、特に医療保険と年金についてはこれまで意識することがなかったので少し調べてみた。そして、改めて「非正規社員を辞めてよかった」と実感することになった。
年金
今後は共済年金は厚生年金と合体するので実質的には2種類。
種類 | 加入者 | 受給額 |
---|---|---|
国民年金 | 非サラリーマン | 基礎年金 |
厚生年金 | サラリーマン | 基礎年金+上乗せ年金 |
医療保険
健康保険などはここから更に細分化されるが、ざっくり分類すると以下の5種類。
種類 | 加入者 |
---|---|
国民健康保険 | 非サラリーマン |
健康保険 | サラリーマン |
船員保険 | 船員 |
共済組合 | 公務員 |
後期高齢者医療制度 | 75歳以上 |
基本的には、エンジニアは雇用形態に従って以下のように加入することになる。
正社員・非正規 → 厚生年金&健康保険
フリーランス → 国民年金&国民健康保険
なお国民年金と国民健康保険は義務なので、年金にも保険にも入らないという状態には法律上はなれない。
では考えてみよう。「フリーランスで月給50万」と「派遣社員で月給50万」はどちらの方が実質的に高いのだろうか。計算前提として年収600万(月給50万*12ヶ月)、東京都千代田区在住、39歳未満とするる
フリーランスの給与
-15,590 国民年金 ※平成27年の金額
-48,089 国民健康保険 ※(6,000,000-330,000)x(0.0645+0.0198+0.007)+33900+10800+14700)/12
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436,321
派遣社員の給与
-54,169 厚生年金(自己負担) ※厚生年金保険料の計算 - 高精度計算サイト
-24,925 健康保険(自己負担) ※平成27年9月分(10月納付分)からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表
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420,906
純粋な手取り金額自体はフリーランスの方が多い。しかし、派遣社員の厚生年金と健康保険は会社が折半して払っており、このうち厚生年金は、国民年金分を支払った残りが上乗せ年金として65歳以降に返ってくるとされているから、ある意味資産として貯蓄されていることになる。よって手取り金額だけでは比較できない。
仮に厚生年金として支払われた分の54,169円-15,590円=38,579円が将来的に100%戻って来るとした場合、その金額を合算したら420,906円+38,579円=459,485円となるため、この時点で派遣社員の方が実質的な稼ぎは多いことになる。また、厚生年金を上手く運用してくれた場合は、戻ってくる金額がもっと増えて4万とか5万とかに増えているかもしれない。だから長期的には派遣社員の方が有利という見方が出ても不思議ではない。
しかし、この点についてよく考えてみよう。
まず、お金には現在価値というものがあり、手元の1万円と1年後の1万円は決して同価値ではない。仮に商事法定利率5%で計算したら9523円だ。30歳の人間が年金を貰えるのは65歳になってからなので、そんな「35年後に貰える54000円」よりも「手元にある50000円」の方が遥かに価値が高いのは万人が同意するところだろう。
二番目に、少なくとも厚生年金制度は破綻する可能性が高い。35年度の2050年には2人に1人が高齢者となる訳で、そんな狂った人口ピラミッドで支えられるはずがない。所得に比例する高額な厚生年金を払って収めた元本がそのまま戻ってくるならともかく、それすら怪しいとも言われている。厚生年金の支給開始年齢は、当初は55歳だったが、今は65歳になっており、今後も引き上げられていくのは間違いない。一方、国民年金は支給額が少ないので単独での生活維持は難しいが、それゆえに破綻するリスクは高くはない。
三番目に、上の例は敢えて「フリーランスと派遣社員の給与が同じ50万円」という前提に基づいたが、実際はフリーランスの方が少なくとも月額単価は20万円以上は多い。何故かと言うと、フリーランスの方が派遣社員より全体的に技術レベルが高いので結果として単価も高いというのが一点。加えて、派遣元には税金や各種保険の手続きなど各種事務負担などが発生するし、有給も年に10日ほど与える必要があったりするので、派遣社員の給料は少なくとも3割程度、多いときは半分以上もピンハネされている。
最後に、そもそも非正規社員の厚生年金と健康保険料は、形式上は会社が折半してくれる事になっているが、実態は本人が稼いできた給料が直接の源泉となっている。決して会社が負担するのではなくて、派遣社員本人が全額負担していると言う事を改めて強調したい。上の例でいうと、会社は厚生年金の54,169円と健康保険の24,925円を支払うために本人への給料からそれを天引きすることになるから、実世界での給与はこんな感じになる。
派遣社員の実態給与
-54,169 厚生年金(自己負担)
-54,169 厚生年金(会社負担)
-24,925 健康保険(自己負担)
-24,925 健康保険(会社負担)
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341,812
もちろん話を単純化している訳であるが、エンジニアの世界でフリーランスと派遣社員の給与が大きく違う理由の1つは、この厚生年金の負担額と言える。この毎月支払う54,169円*2=108,338円は、70歳だか75歳には、ある程度は年金として返ってくるだろう。でも20代30代の若いうちこそもっともお金が必要なんじゃないか。それを思うと、派遣社員にとっての厚生年金はもはやセーフティーネットというよりは、ただの重荷だ。
これが正社員なら少し話が違う。というのも、平社員の給与は平社員間で分配されているし、そもそも会社には本業が有るので、その本業から産まれし利潤がある。
分配方法の代表的なものに「年功序列」があり、例えば新入社員が幾ら労使を提供しても「新入社員だから」という名目で給与は少なくなるし、使えない窓際社員でもそれなりに長期勤続していれば、昇給と退職金の積み重ねで貰える給与はある程度は高くなる。これが長期勤続のインセンティブとなるし、若手社員は初期は割を食っていると言える。
こうした給与分配と会社本体の営業収益から出た「会社のお金」から、正社員の厚生年金の会社負担分を支払う事も可能なので、本来はこれが本当の意味での「会社負担」なのである。
一方、派遣社員の場合は横の繋がりもないから分配機能もない(つまり、幾ら派遣社員として長期貢献しようがボーナスも退職金もマージン率の優遇もないので、全員一律)。派遣会社には人材を派遣して得る以外に大した収入源もないので、「厚生年金と健康保険の半分を会社が負担しろ」と言われた場合は、そのまま単純に派遣社員本人の給与から天引くしかないのである。